色褪せた半券
チャイナタウンで仕事があった。
ミーティングまで少し時間があったので商店街(?)を散策する。
それにしても、この街は年々、広がっている様な気がする。チャイナタウンは膨らみ続ける。
NYPDの警察官も、中国人系アメリカ人が多数働く。商店街の中心部に入り込むと、ここがマンハッタン島であることを忘れる。隣接する公園では、あちらこちらで麻雀に講じる人たち、それを取り囲んで観戦する人たちで賑わっている。もちろん英語もほとんど聞かなくなる。
★ ★ ★
「そういえば、靴下、買わなきゃ。」
っと、いうわけで、小さな小さな衣料店に入る。中には、メガネをかけたおじさんが一人で店番をしていた。
両サイドに壁の様に積まれた商品の中から、「発掘」するみたいに靴下を探し出し、お店の一番奥にあるレジでお金を払う。するとおじさんに話しかけられた。
「あんた、日本人かい?」
「そうです。」
「そうかー、ワタシ、日系人よ。」
「えっ、そうなんだー。」
話は、突然、盛り上がる。
「時間があるんだったら、ワタシの息子の写真、見てよ。」
そう言って、おじさんは僕の返事も待たずに、お店の奥からいっぱい写真を持って来た。
そこには、彼の奥さんや、息子とその家族の写真があった。聞く所によると、息子はとても優秀な医者で、ペンシルバニアで素敵な奥さんとおっきな家に住んでいるらしい。彼の言う通り、幸せそうな家族の写真ばかりだ。
一通り写真について説明した彼は、ズボンのポケットから財布を取り出し、その中にキレイに仕舞ってあった色の褪せた航空チケットの半券を2枚出して見せてくれた。
「これ、息子が家に招待してくれた時に、ファーストクラスに乗せてくれたの。広い席だったよ。アンタもいつか乗ってみると良いよ。」
その、余りにも大切に、多分肌身離さず持っている色褪せたチケットの半券に、僕は泣きそうになってしまった。
「そうか、よかったね。良い息子さんだね。」
「ホントよ。ワタシ、幸せよ。」
★ ★ ★
夕べ遅くに雷を伴って沢山雨が降ったせいか、いつもはホコリっぽいダウンタウンに吹く風も、今日はとても心地よい。
ワールドトレーディングセンター・サイトにも新しいビルが一つ完成。しかし、ツインタワー跡地には巨大な空間が今だ広がっている。
「親父が生きていたら、あのおじさんの様に、僕の事を自慢してくれるだろうか。」
そんなことを、ふと考えさせる、夜だった。